市民科学者にどのようなメリットがあるのか

 職業研究者が市民科学者を利用するメリットについては前記事「どうして科学者が市民科学を推進するのか」で述べた。端的に言えば、市民を無償の労働力として利用することで成果を残して自分自身のキャリアに繋げるためである。

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 一方、市民科学者は行政の研究機関とは全く別の民間企業で働いている人がほとんどであるため、市民科学を熱心にしようが彼らの昇進・昇給には繋がらない。また、市民科学は半ばボランティアが前提であるため、給与が支払われるわけでもなく、むしろ調査地に行くための交通費などで出費が増えるだけである。とはいえ、何の報酬もない状態で、職業科学者の言われるがままに都合よく扱われることはないであろう。そこには職業研究者が市民を操るための巧妙な仕掛けが隠されている。では、具体的に職業科学者から市民科学者に与える報酬について見ていきたい。

 

 実際に市民科学を推進している職業研究者が市民に対してのメリットについて記述が日本生態学会誌に掲載されていたので引用する。宮崎佑介 2016 「市民科学と生物多様性情報データベースの関わり」 日本生態学会誌 66:237 - 246

宮崎氏は神奈川県立生命の星・地球博物館に勤務する学芸員で、魚類を専門とする研究者である。氏は「魚類写真資料データベース」というWEBの魚類図鑑を市民ともに発展させてきた。彼がこれまでデータベースの発展を支えた市民のメリットとして以下の項目を挙げている。

 

  1. 正体不明の魚の同定結果 を知りたいという欲求を満たすことができる
  2. マス メディア等への写真提供による著作権収入を得ることが 可能
  3. 出版される魚類図鑑 や科学論文に自身の名前が掲載される可能性があること

 

 このデータベースに限らず、多くの科学者が市民を利用する上で与えるメリットと呼ばれるものは1と3である。

 1に関しては興味ある人の知的好奇心を満たすという点で意味のあることである。

 2に関しては年間どの程度マスメディアから写真提供の依頼があり、金銭的報酬を得ることができているのか記されていないため、どこまでメリットと呼べるかは不明である。しかし、一般的にはマスメディアもできる限りコストや手間を抑えたいという意識があるため、あえて有償のデータベースを使用する頻度というのは限られるのではないだろうか。

 3に関してはこれをメリットと呼ぶにはいささか疑問である。図鑑や論文に自身の名前が掲載されることによってどのようなメリットがあるのか全く想像できないからである。人によっては自身の名前が載った本が世に出るだけで、自分の活動が誰かの役に立ったという承認欲求のが満たされるのかもしれないが、それも一時的なものである。少なくとも科学者が大々的に掲げるようなメリットではないと思う。